短期記憶について
「ワーキングメモリー」
ワーキングメモリーとは、実験生理学では動物が報酬獲得のために一定時間の間先行刺激に関する記憶を保持していることを指します。つまり、ある認知課題の遂行に必要な情報を、必要な期間だけ能動的に貯蔵するメカニズムがワーキングメモリーです。簡単に具体的に説明すると様々な認知活動(会話や文章の理解、判断など)を行うには、さっきまで何をしていて、今何をしているのか、また、次に何をすべきかを覚えている必要があります。このようなヒトの日常生活の認知活動に必要な情報を保持するための短期記憶をワーキングメモリーとします。
「海馬」とは一時的な記憶の保管庫です。この海馬とはsee horse(タツノオトシゴ)のことで形状が似ています。縦からみるとアルファベットのC字型に弯曲しているようになっています。このC字型からさらにその各場所をC1、C2、C3と名付けています。海馬の位置は頭の中心部のこめかみの奥にあり、左右一対の組織でできています。海馬は神経細胞が規則正しく繋がって均一に中心に向かっている構造となっています。軸の吻側は中隔核付近から始まり、間脳を巻き込むように伸び、外尾側の側頭葉へと伸びています。海馬に短期記憶される仕組みは五感から送り込まれた情報を大脳の新皮質で受け取り、新皮質で情報を分析し、情報ごとに細かく切り分けて海馬の中心にある歯状回という場所に送ります。ここから海馬内にあるC1、C2、C3とへ情報が送られリレー形式のように情報を伝達し一周して再び大脳新皮質に送られ長期記憶となります。一度、大量に受け取った情報をC1、C2、C3を経由することで分析、整理を行う的確な情報として大脳新皮質にもどす仕組みです。
電気生理学的実験から海馬は非常に特徴的な電場の揺らぎ活動をしていることが分かっています。この電場の揺らぎ活動こそが記憶・学習に関与しています。海馬にある[要素に反応する神経細胞]に電気が通らないと、電気はいずれ消失し、レセプターや神経伝達物質量もやがて元通りになり記憶は忘れてしまわれます。強いLTP (long-term potentiation)が発生すると、海馬にある[要素に反応する神経細胞]を中心にシナプスが伸び、形成した神経回路は海馬から大脳皮質を中心とした脳の各箇所へ移動(転写)されます。神経回路は完全に移動(転写)して海馬に情報は残りません。
この海馬の機能を学習という観点から説明します。先に述べましたように海馬では,それぞれのシナプスに高頻度の刺激を与えると、神経の反応が瞬時に大きくなり、しかもこれが数時間から数日も持続します。このシナプス可塑性はその性質から長期増強と名付けられ、LTPと呼びます。うまく刺激すると少ない刺激の回数でLTPが起きます。 扁桃体を活用する暗記法を用いれば復習回数が少なくても覚えらます。繰り返す回数を五分の一から十分の一に減らすことが可能です。しかし逆に強いストレスがかかるとLTPは起きません。 すなわち適度な緊張感を保ちながら、LTPを起こすシータ派と扁桃体を適切に活用して勉強することが、仁科研の最大の狙いの一つです。ここに効率よく短時間で学習でき る根拠の一つがあります。